山梨県の県名は県庁の置かれた郡名から
山梨県の県名は、県庁が置かれた郡名に由来している。
現在、山梨県の県庁は甲府市にある。
甲府市は江戸時代の甲府城(府中城、甲斐府中城)の城下町を前身としており、山梨郡に属していた。
廃藩置県により、明治4年11月20日(1871年)に山梨郡 甲府城下(甲府総町)に県庁を置く県が設置され、郡名を取って山梨県とされた。
甲斐府、甲府県、山梨県へと変遷
幕末時、甲斐国の大部分は江戸幕府直轄地だった。
甲府城下などを管轄する甲府城の甲府城代や、甲府城下に代官所を置いた甲府代官のほか、石和代官、市川代官などが甲斐国内の幕府直轄地を管轄。
▲甲府代官所跡
▲石和代官所(石和陣屋)跡
▲市川代官所(市川陣屋)跡
明治維新後、新政府も甲斐を重要拠点のひとつとし、明治政府直轄地とした。
慶応4年6月1日(1868年)、甲府城代に代わり、甲府城に甲府鎮撫府(ちんぶふ)が置かれる。
同年8月、江戸時代に甲斐国内の直轄地を管轄していた甲府代官・石和代官・市川代官の支配地を、それぞれ府中県(甲府県)・石和県・市川県に改めた。
同年(明治元年)11月5日には甲府鎮撫府と府中・石和・市川の3県を統合し、甲府城に庁舎を置く甲斐府(かいふ)を新たに設置。
翌年の明治2年(1869年)7月28日には、甲斐府が甲府県(こうふけん)に改称される。
さらに明治3年5月(1870年)、田安領(田安徳川家の領地のうち、甲斐国内にあった領地)を甲府県に編入。
そして明治4年11月20日(1871年)、廃藩置県により新制度下における、甲府県と同じ範囲の山梨県が設置された。
県庁も甲府県と同じく甲府城下(甲府総町)に置かれている。
廃藩置県後の新しい県でも甲府県の名前を使わなかった理由は、定かではない。
新制度下における新しい県であることから、旧制度下の県との違いをわかりやすくするために旧名称を避けたものか。
ちなみに明治22年(1889年)7月1日、市制施行によって甲府総町は甲府市になっている。
山梨の地名は古代の郷名に由来
山梨郡の郡名は、実は古代から存在する。
平安時代前期に全国の国・郡・郷を記載した『和名類聚抄(わみょう るいじゅしょう、和名抄)』にも記載されている。
そして山梨郡の郡名は、山梨郡内にある「山梨郷(やまなしごう)」が地名由来地とされている。
山梨郷も『和名抄』に記載されている古い地名だ。
山梨郷の推定地は、現在の笛吹市 春日居町あたりとされている。
なお山梨郡は、郡区町村編制法の施行によって明治11年(1878年)12月19日に東西に分割され、東山梨郡・西山梨郡に分かれた。
またのちの市町村合併により、昭和期に西山梨郡が消滅、平成の大合併により東山梨郡も消滅。
山梨の名は県名のほか、山梨市が継承している。
山梨郷の地名由来は「山を成す」
山梨の地名由来地である山梨郷だが、山梨の地名はどんな意味なのか。
由来は諸説あるが、山梨郷推定地の地形を見れば「ヤマナシ」=「山を成す」であると推測できる。
山梨郷推定地の一部である笛吹市の春日居町鎮目には「山梨岡神社」という古社がある。
山梨岡神社は、平安時代前期に全国の有力神社を記載した『延喜式 神名帳(えんぎしき じんみょうちょう)』に記載されている「山梨岡神社」だと推定されている。
この「山梨岡」という名称が大きなヒントであり、山梨郷も山梨岡に関係している可能性が高い。
山梨岡とは「山を成す丘」で、つまり「山のような丘」ということだろう。
山梨岡神社の北側には大蔵経山(だいぞうきょうやま)という標高約715mの山がある。
大蔵経山は見事な円錐型をした、まさに絵に描いたようなキレイな山の形をしている。
また山梨岡は歌でも呼ばれている。
歌のひとつは『古今六帖』の「あしひきの山なし岡にゆく水のたえずぞ君をこひわたるべき」(作者知らず)。
もうひとつは『能因法師集』の「かひがねにさきにけらしな足曳のやまなしをかの山なしのはな」(能因)である。
昔から山梨岡は、地域の象徴的な山だとわかる。
そして、山梨岡は大蔵経山だといわれている。
山梨郷はこの大蔵経山のふもとにあることから、大蔵経山=山を成す丘から郷名を取っているのではなかろうか。
ちなみに、山梨市石森地区にも同名の山梨岡神社がある。
春日居町の山梨岡神社との関係は不明だが、山梨市石森地区は古代に山梨郡大野郷だったと推定され、山梨郷推定地域外になる。
山梨県の地名に関する情報
現在の庁舎所在地 | 甲府市 |
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地名命名パターン | 郡名由来 |
地名発祥時期 | 不明 (少なくとも古代には存在) |
現都道府県の設置時期 | 明治4年11月20日(1871年) |
明治維新時のおもな管轄 | 【現山梨県域内に拠点があった領地】 旧 江戸幕府直轄地(甲府城代支配処、甲府代官支配処、石和代官支配処、石川代官支配処) 【現長野県域外に拠点があった領地】 田安領(田安徳川家領地) など |
範囲内のおもな旧国 | 甲斐国(かいのくに) |
庁舎所在地の変遷 |
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参考資料
- 『日本歴史地名体系』(平凡社)
- 『古代地名語源辞典』楠原 佑介ほか(東京堂出版)
- 『大日本地名辞書』吉田東伍(冨山房)